2009年07月02日
猫のひげ
もうそろそろ耳が聞こえなくなりました。
化学物質過敏症なので、補聴器をつけるとかゆくてたまらないのです。
だから、すみませんね(と言いながら両手を耳のうしろにかざして私の話をよく聞こうとする)。
ええ、不思議なんです、自分でもこうやって生きて、障害をもった息子の排泄の世話に一日中忙殺されているのが。
なんとか80歳になったら、私だけで住む家を探せるでしょうか。それだけが望みなんですよね。
息子から「死ね」、夫から「おまえは強情な女だ」って怒鳴られると、私、感嘆しちゃうんですよ。ええ、嘆きでなくって「!」マークです。
腹が立つより、よくこんな言葉が言えるなって、私なら絶対言えない言葉を話せるなんて「!」って思うんですよ。
2時間かけて息子の排便の世話をして、そのにおいにまみれながら、どうしたらこの世話を効率的にできるかをずっと考えてきました。それがちょっとだけ楽しかったんです。
それに、私すごく好奇心が強くて・・・強すぎるのかもしれません。
たとえばですね・・・私、猫のひげを集めるのが好きなんです。
私の宝物箱があるんですけど、ええ、72歳ですがちゃんと隠してあるんですよ。
そこには、猫のひげが何本もしまってあるんです。ときどき部屋の中に落っこちてるもんで。
猫のひげ、時間がたつと固くなるんです。ええっ、人が殺せるくらいかですって(笑)
先生ってヘンなこと言いますよね。毒を仕込めば殺せるでしょうが、夫くらい。
でも、大切な猫のひげを、夫を殺すためになんか使いたくありません。
私、間、あわいっていうか、どっちつかずのものや字が好きなんです。
たとえば、ひらがなの「し」と「く」の境目がどこにあるかをず〜っと考えてると、ほんとに楽しくって時間がたつのを忘れてしまうんです。
ああ、猫のひげも生きてるか死んでるかの境目ですね。
息子の介護から逃げて伊豆の別荘に住んでいる夫からの罵声、障害をもちながら一切の対人関係からこころを閉ざし、母を罵倒することで生きている息子、98歳になっても老人ホームで不満を述べ、娘である彼女から金銭を引き出そうとする母。
そんな人に取り囲まれて生きている72歳の彼女は、杖をつきながらやってくる。私と話している時の表情は、まるで少女のようである。





