2007年05月08日

青葉の季節に

すっかり更新を忘れてしまっていた。
いろいろやるべきことが多くて二週間もさぼっていたこと、すみません。
研究助成金の申請、水面下で進むいろいろなプロジェクト・・・風が吹く方向に向かって身を任せると、結局こうなってしまう。
某誌に頼まれた書評のために、このところ集中して「うつ」に関する本を読んだ。「薬でうつは治るのか?」片田珠美(洋泉社新書)、「仕事中だけ≪うつ病≫になる人たち」香山リカ(講談社)、「抗うつ薬の功罪ーSSRI論争と訴訟」D.ヒーリー著、田島治監訳(みすず書房)、それと話題になった「累犯障害者ー獄の中の不条理」山本譲二(新潮社)。
ちゃんと勉強すると多くのことがわかる。DSMⅢ(1980)からすべての変化が始まった。従来の力動的精神医学(簡単に言えばフロイト派の精神分析)の残滓を徹底して排除したのだ。
操作的診断、平易でわかりやすい診断基準の登場が、神経症を退潮させた。代わって登場したのが、PTSDであり、気分障害のひとつである「うつ」であった。
もうひとつ忘れることができないのが、ハッピードラッグといわれるプロザックが1987年にアメリカで認可されたことだ。
分析に10年通っても気分が上向かなかったのに、プロザックを1ヵ月飲んだだけで「ハッピー」になれた、といった体験者の話が宣伝に使われ、製薬会社イーライ・リリー社の売り上げは前年度比37%増となった。
従来の3環系抗うつ薬から、選択的セロトニン再取り込み阻害薬SSRIへの転換は、急激に精神科医療を変貌させた。日本で外来の精神科クリニックが増加したこととSSRIの隆盛は大きな関連がある。
パキシル、ルボックス、デプロメールが日本での薬剤名だ。中でもパキシルは、お手軽に内科、婦人科などでも処方され、「いやな気分よさようなら」(増補・改訂第二版、デビッド・D・バーンズ、星和書店)という本の名前のとおりの用いられ方をしている。
副作用が少ないことが最大の長所と謳われているが、その実多くの副作用がしだいにわかってきている。自殺衝動を高めることもそのひとつだ。しかしそのことはあまりに知られていない(伏されているのかと勘ぐりたくなるほどに)。
実は昨年、厚生労働省は、製薬会社に対してSSRI系の薬剤の使用上の注意の表記のしかたを変えるように、注意を促している。それはアメリカと同様の動きだった。
マイケル・ムーアの有名なドキュメント映画「ボーリング・フォー・コロンバイン」を思い出してほしい。あの犯人の男性が、SSRIであるルボックスを長期にわたり服用していたこと、犯行と薬の服用の因果関係が、被害者の家族から訴えられたことで、製薬会社はルボックスをアメリカでのみ販売を中止した。
といったことを学習しつつ、「カーニヴァル化する社会」鈴木謙介(講談社現代新書)も半日で読了。2年前に出版されて、話題になったので読みたいと思っていた。最後部の嗜癖に関する部分、共依存に関する部分は、目配りしていることの誇示ではあるが、前半の叙述の緊張感に比べるといささか手抜きを感じる。
ただ自己中毒になるプロセス、たえざる躁とうつの繰り返しでしかない世界(データベースをめぐる)を生きるしかないという部分は、どうしても首肯できないのだ。内容はどうでもいい、祭りがあればいい、という点は、どうしてもうなずけない私である。
世代の違いとくくられるかもしれないが、私の中に流れる血が、それだけは拒絶してしまう。でも、30代以下のひとたちが、ネットの匿名性の空間で繰り広げる祭りは、なるほどこのように記述されれば、了解可能だとは思った。

投稿者sayoko:00:56 |