2006年12月30日

よいお年をお迎えください

27日に仕事が終わり、文京区のおいしいお鮨屋さんで〆となった。ほんとに1年間よく働いたね、と芋焼酎のお湯割りで乾杯。
28日は小菅の東京拘置所に。これは仕事の延長である。
あの建物がたぶん土地の雰囲気を規定しているのだと思うが、東武線を下りたら目の前に狭い道路と住宅街が。
一軒の軒先には白いダンボールがひもで吊るしてあった。「紳士服リホームいたします。」と黒のマジックで手書きしてある。その横には小さな字で「婦人物もします」と書き添えてある。
高速道路を見上げながら、荒川の土手を右手に眺めながら歩くのだが、気分が落ちていく。何年も前からあるような「保釈金のご相談に応じます」という狭い一軒家と差入れ屋を通り過ぎて目的地に達するというわけだ。
一仕事を終え、年内に遣り残したことを指折り数えて、そうだ、今日しかない、と気づいた。「ダーウインの悪夢」(フーベルト・ザウパー監督、2004)を渋谷のシネマライズで見ることにする。
そのころにはかなり体調が悪く、寒気とだるさが前身をおそう。なにしろ朝から吐き気がして珍しく食欲もない。芋焼酎の飲みすぎかと思ったが、どうもそうではないようだ。
ドキュメンタリーであるこの映画の内容はこれまた暗く救いのないシーンばかり。タンザニアのヴィクトリア湖の生態系は「ダーウインの箱舟」と呼ばれるほど多様だったという。それが1960年代の終わりに一説によるとイギリス人が35匹の肉食魚を放ったことから生態系が大きく変わった。
話題作として朝日新聞にも今朝掲載されていたが、あっという間に繁殖したその魚は「ナイルパーチ」と呼ばれる。そこから魚の加工業者の勃興、農業を放棄して内陸から流れてくる労働者、それを相手とする売春婦の群れ、エイズの大量発生、ストリートチルドレンの群れ、薬物依存、性的虐待・・。最後には、ヨーロッパから武器を積んできた飛行機がナイルパーチを交代に積んでかえることを暗示して終わる。
2メートル、100キロもある巨大魚は、地元タンザニアのひとたちの口には入らず、EUと日本に空輸される。一部の肥え太る加工業者と、飢えとエイズに苦しむ裸足のひとびととの対比はみごとだ。
加工した魚の残り「あら」がはるばるとトラックで運搬される。それを干すひとたちは皆咳き込んでいる。無数のうじの湧いた魚の内臓や頭から発生するアンモニア臭のせいだ。そんな魚の頭に群がるひとびとの姿が物語っているのはなんだろう。
ちなみにナイルパーチとは、イギリスのフィッシュアンドチップスにタラとして使われていたり、フランス料理の「白身魚」として登場する魚だ。大量輸出国のひとつが日本である。画面の巨大魚の姿は実にグロテスクだが、工場でさばかれ皮をむいた後の魚は、私たちが日常見ているおおぶりな「白身魚」そのものだ。数年前までは「白スズキ」と呼ばれていたようだ。
今ではナイルパーチと表記されているらしいが、多くは弁当のフライ、味噌漬けの材料として日常私たちの口に入っている。どのように捕獲されどのように加工されたか、その長い長い旅を想像すると、ほんとに「白身魚」を食べる気がしなくなる。
地球規模の第三世界の問題、人口2割の先進国に住む私たちの問題を考えると、適者生存をとなえたダーウインの「悪夢」を見る思いだった。
悪寒と吐き気をがまんして見ていたのだが、暗くなった渋谷の町に出たころには体調は最悪になっていた。やはり仕事が終わってどこか神経が弛緩している時間のメニューとしてはきわめて不適切だったようだ。
果てしなく眠く、そのくせ眠りも浅い。あらゆる気力が失せたようで、ああこれはマラソンランナーが走るのをやめたあとの虚脱状態だ、と夢の中で考えた。
というわけでしばらく空白のときを過ごして新年には復活したいと思っています。
みなさま、よいお年をお迎えください。

投稿者 sayoko: 02:41