2006年05月02日

諧調の美

かもめ食堂(荻上直子監督)を見た。
36歳の女性監督、ブラボー!しり上がりに人気が高まるのも納得である。3人の主演女優は圧倒的存在感だが、やはり小林聡美がすばらしい。夫の三谷幸喜監督の「有頂天ホテル」をはるかに超えるこの映画の存在感を象徴しているのはさすがだ。
そう、背筋がまっすぐ伸び、ひとはあるべきところに立ち、物はあるべきところに在ると思わされ、すなおにこっくりうなずいてしまう。呼吸は深くなり、ヘルシンキ郊外の森の空気で胸を満たした私は、人生がまっすぐに見通せるような感じがした。
かもめ食堂は光に満ちている。白木のテーブルと椅子、まっしろな布巾でいつもコップをピカピカに磨いているサチエ、整然と並べられた鍋、そしてコーヒーカップ。
「やっぱり猫が好き」の名トリオが出演すると聞いて映画館に足を運んだコアなフアンもいるだろう。みんな笑える場面を待っているが、実はどっと湧く場面はそれほど多くない。
3人の女性はそれぞれの過去を一切問わず、それでも一生懸命「人は変わるものです」「地球最後の日の晩餐には私を呼んでくださいね」と語り合いながら、今日一日を正しく生きている。
いまや死語に近くなった「正しい」ということばを遠慮なく使えるのがこの映画のすばらしいところだ。フィンランドでも日本でも悲しい人は悲しく、さみしいひとはやっぱりさみしい。そのことの普遍性に裏打ちされて、この映画は正しいひとたちで満たされる。
豚のしょうが焼きをまっしろな皿にグリーンの付け合せと並べる。卵焼きは黄色に焼きふっくら巻く。シナモンロールのにおいはかもめ食堂を満たす。
すべてが法則にのっとって時間は流れる。諧調は美しい。
大杉栄が「美は乱調にあり」と言ったが、かもめ食堂は諧調の美に満ち、それは時として陶酔感すらもたらすほどだ。

投稿者 sayoko: 02:32